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そうだ、京都に住もう by永江 朗(ながえ・あきら)

ガレージをあきらめ、京都でクルマを使うことをあきらめた。不思議なもので、クルマをあきらめたとたん、クルマについて突き放して見られるようになった。歩行者や自転車利用者の視線で見ると、クルマというのはずいぶん困ったものだと思う。路上を占有するし、傲慢だし。たとえば、横断歩道を渡ろうとするとき、止まるクルマは皆無に近い。道路交通法第38条では、渡ろうとする歩行者がいるとき、クルマは止まる義務があるし、止まらなかったら3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金なのだけど。
 まあそれはともかく、では京都の日常の足をどうするか。自転車を使うことにしよう。幸いなことに京都は坂が少ない。街の周囲はぐるりと山が連なっているけれども、その中はほとんど平らだ。苦もなく走れるだろう。
 京都に行くたびに、地下鉄の運賃が高いなあと思う。東京の地下鉄は初乗りが160円で、その次が190円。我が家から大学のある早稲田まで行くのに、東急東横線で自由が丘から渋谷までが150円。渋谷から東京メトロ(地下鉄)で西早稲田まで乗って160円。西早稲田から早稲田大学戸山キャンパスまでは歩いて15分ぐらいかかるので、雨の日や体調がいまいちの日は渋谷から半蔵門線で九段下に行き、東西線に乗り換えて早稲田に行く。その場合は190円。この感覚が染みついていると、京都の地下鉄で京都から京都市役所前までの250円や、河井さんの事務所に行くときに乗る京都市役所前ー今出川の250円は高いと感じる。もっとも、福岡でも仙台でも似たようなものだから、京都が高いのではなく、東京が安いのだろうけど。
 ガレージをつぶすかわりに、玄関の土間を大きくして、そこに自転車を入れることにした。ガエハウスでも自転車は玄関に置いてある。昔、馬込に住んでいたとき、マンションの地下駐車場に置いておいて盗まれたことがあり、それ以来、自転車は室内に置くようにしている。
 自転車だけじゃなくてモペットもほしい。モペットというのはエンジン付きの自転車で、エンジンを使わないときはペダルをこいで動かすこともできる。これぞ本物の原付=原動機付自転車である。
 ほんとうはオートバイがほしい。東京でも、クルマを運転していて、渋滞をすり抜けていくオートバイを見て、いいなあと思う。電車は混むし、クルマは渋滞しているし、自転車で行くにはちょっと遠い、なんていうとき、オートバイがあればなあ。私はパニック障害気味なところがあって、満員電車に乗るとドキドキしてくる。特に、前の電車がつかえていてノロノロ運転になったり、駅と駅の間で止まったりすると、ドキドキが激しくなって居ても立ってもいられなくなる。脂汗も出てくる。そうじゃないときも、隣にタバコのニオイのするオッサンや、香水のニオイのするネエちゃんや、ニンニクのニオイのするニイちゃんがいると息が苦しくなる。オートバイがほしい。
 しかし、京都でオートバイというのは大げさなので、モペットがいいと思う。自転車&モペットの4輪生活。妻も自転車がほしいというので6輪生活だ。
 とは言うものの、自転車には躊躇するところがあるのも事実。京都に行くたびに呆れるのが、自転車のマナーの悪さなのである。御池のようにちょっと広い歩道だと自転車が猛スピードで走っていく。ぶつけられたら死ぬかもしれない。河原町や烏丸でもかなりのスピードで自転車が通る。木屋町の歩道を歩いていると、後ろからベルを鳴らして「そこをどけ」と合図してくる自転車が必ずある。
 東京も少し前までひどかったけれども、この1、2年で急速に改善された。「自転車は本来、車道を走るもの」ということがあちこちで言われるようになったのが効いているんだと思う。東京人は「本来は××」というのが好きというか、正統神話に弱いというか、「決まりがどうだろうと、俺はマイウェイをいくぜ」みたいな人は少ない(大阪と逆だ)。それでもたまに歩道を走って後ろからベルを鳴らす馬鹿者がいるけれども。京都は東京に比べてまだ馬鹿者比率が高い。
 駐輪場が少ないのも困ったことだ。たとえば四条烏丸付近とか、京都駅付近とか、あのへんには駐輪場があるのだろうか。お寺や美術館はどうだろう。放置自転車、不法駐輪というのも困ったもので、これは東京もひどく、自由が丘の駅周辺なんか人がすれ違えなくなることもある。点字ブロックの上に置いたり、車椅子も通れないような置き方をしているのを見ると、「私が奉行だったら、市中引き回しのうえ打ち首、獄門にしてやるのに」と思う。
 駐車するところのない自転車に乗るのはどうかと思うし、となると自転車で行けるところもかなり限られ、京都生活は徒歩が中心になるのだろうか。不安はたくさんあるけど、6輪分の駐車スペースを玄関の土間につくることにした。
永江 朗(ながえ・あきら)
「哲学からアダルトまで」を標榜するフリーライター。近著は『セゾン文化は何を夢みた』(朝日新聞出版)。『Meets Regional』では長期にわたって「本のむこう側」を連載中。東京・自由ヶ丘の自宅は建築家ユニット、アトリエ・ワンによる設計。

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